CINEMA草紙

ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、キューバ等々、中南米カリブのラテン映画・音楽・カルチャーを紹介するニッチなブログです!

ブラジルで見た「おくりびと」  

☆映画「おくりびと」はブラジルで公開され、DVD海賊版もあちこちに出回っている。海賊版は違法な行為ではあるのだが、海賊版が出るということはメジャーな作品と認められたことにもなるのがここブラジルなのだ。
時間に余裕のある人は海賊版よりもお得に劇場で見ることだってできる。サンパウロでは多くの劇場が毎週水曜は半額デー。さらに2時からの回は無料という劇場もある。
ということで、私は水曜2時の無料の回に出かけることにした。

☆☆小さなオーケストラでチェロ奏者としての仕事を見つけた大悟だったが、オーケストラの突然の解散で仕事を失い、借金を抱え、故郷の山形に戻ってくる。
ひょんなことから、遺体を綺麗にする仕事「納棺師」として働き始める大悟。最初は戸惑いの連続だったが、ベテラン納棺師の仕事を見ているうちに「遺体を清めて旅立たせる」という仕事にやりがいを見出すようになる。

世間知らずの芸術家だった大悟が、納棺師という特殊な仕事につくことによって、大人になっていくまでの気持の変遷が、誰にでもわかりやすく丁寧に描かれていた。
久し振りによくこなれた脚本の作品をみて「やっぱり日本人はきっちり仕事するよなあ」とまず関心。そして何より、脇を固める山崎努と風呂屋のおばちゃん・吉行和子が素晴らしい。これぞ日本映画!である。
山崎努と冠婚葬祭といえば伊丹作品である。
最初の納棺HOW TOビデオの録画のシーンでは「お葬式」、さらにもっくんのオムツ姿は「しこふんじゃった」を思い出し大笑い。
そんなコミカルでちょっとブラックな導入部分でまず肩の力を抜き、徐々に感動の納棺の話に入っていく。その自然な流れに好感がもてた。
風呂屋のおばちゃんとのちょっとした交流、昔の友人や周りの人々の職業蔑視等々、日本の田舎にありがちなパータンではあるのだが、そういう予定調和も気にならないのは、納棺という仕事の特殊性と脇役の味のある演技があるからだろう。

そして山形の美しい自然。東北とチェロ、と言えば宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」である。作者がゴーシュをイメージして大悟という人物を作り出したことは十分想像できる。
美しい日本の田園風景とシンプルなストーリー、そして味のある脇役陣の演技にほだされ、風呂屋のおばちゃんの納棺のシーンでは、自然と涙があふれてきた。

おそらく日本でこの映画をみたのなら、こんなにも涙は出なかったと思う。
でも、ここは多感な人々の多いブラジル。そして私は、もうすぐブラジルを去らなければならず、会えなくなる人が大勢いる、というナーバスな気持のなかでの鑑賞ということもあり、つい感情が高ぶってしまった。
「別れ」というのは何度経験しても寂しいものだ。別れてしばらくすれば、何でもない日常に戻るとわかってはいても、別れの瞬間というのは、なんとも表現し難い湧き上がる感情が抑えきれなくなる。
ひねくれモノの私が、こんなにも感情的になるんなんて…。
うれしい気持ちを正直に表現できない不器用な自分、ホントは寂しいのに寂しくなんかないと強がる自分。そんな肩肘はった生き方をしてきた自分の、ガチガチに凝り固まった感情が、すっと軽くなり、自然に涙が出てきた。
ときには、気持ちに正直に泣いてみるのも悪くない。
格好つけずに感情を表現することは、心にうるおいを与えてくれるものだ。

"映画レビューの書き手"という視点から見れば、「おくりびと」は、取り立てて驚きも発見もない映画である。よくできてるけど普通、という評価でしかない。
それでも、映画をみて自然と素直な気持ちになれただけでも「見る価値あり」の映画である。

最後にもう一言;生き別れの父との劇的な再会話はやりすぎの感あり。笹野高史が風呂屋の店番しながら居眠りしているシーンで「完」だったら、大絶賛!なのだが…。
エンデイィングはさらりと、が、私好みです。
(父を演じた峰岸徹の遺作になってしまったということもあるので、父のシーンがすべて余計と言うのも気が引けます…。結果的に峰岸徹さんに捧げる作品となり、このエンディングは必然だったのかもしれません)。

さらにもう一言;映画を一緒に見たブラジル人の友人は「日本にもこんなにかっこいい俳優がいるのねー!」と、もっくんをみて驚いていました。
日本映画はオズ作品とアニメしか知らない彼女に、もっとたくさん今の日本映画を紹介すればよかったな、とちょっと反省。


おくりびと
滝田洋二郎監督、本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子、吉行和子、笹野高史、杉本哲太ほか出演
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Posted on 2009/07/01 Wed. 22:47 [edit]

category: 映画レビュー

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